物理学者の間違っている常識 (シリーズ2)

      運動する物体は、運動系ではない
 皆さんは、運動する物体は、「運動系」と考えている方がいると思います。私も最初は、「運動系」と考えていました。
 アインシュタインは、「特殊及び一般相対性理論について」(金子 務 訳)の中で、座標系とガリレイ座標系について言及しています。
 アインシュタインの考え方では、棒や電車(剛体)に固着した座標軸を考え、この剛体が等速度で、直線的に移動していると、固着した座標軸をガリレイ座標系としています。
 この考え方は、同時性の否定で使った棒や、ミンコフスキー時空図の説明で使われた点の移動でも使われています。
 棒や点とともに移動する観測者がいると別の系の扱いになっているのです。 
 しかし、下記のような考察をすると、運動する物体や棒・点に座標軸をつけても、完全なガリレイ座標系には、ならないのです。
 それでは、このことについて考察してみましょう。
 地上(空気の存在下)を枠だけでできた電車と密閉された普通の電車が、速度Vで移動しているとします。
 各電車の室内の観測者が、ボールを自然落下させると、図-1に示すように、枠だけでできた電車では、ボールが、放物線を描いて落下します。
 一方、普通の電車では、ボールは、観測者の足元に垂直に落下します。
 地上(軌道堤)にいる観測者が、ボールを落下させると、観測者の足元に垂直に落下します。
 地上と同じ運動法則になっているのは、普通の電車の室内のみです。
 普通の電車の室内だけが、ガリレイ座標空間なのです。
 普通の電車の窓から手を外に出し、ボールを落下させると、ボールが、放物線を描いて落下します。
 窓の外や、枠だけでできた電車の周りの空間は、静止系の空間なのです。

        

        

                        図-1
 枠だけでできた電車や、棒に座標軸をつけても、周りの空間は、ガリレイ座標系にはならないのです。
 ガリレイ座標空間は、限られた範囲(密閉された室内)でしか存在しないのです。
 枠だけでできた電車の観測者が、静止系の空間の事象を観測すると、普通の電車に乗っている観測者と同じ事象を観測します。
 また、枠だけでできた電車が金属でできていたとして、この金属を伝わる振動(音)や熱の伝搬速度は、普通の電車の室内に置かれた金属と同じ伝搬速度になっています。
 しかし、枠や棒だけで、周りの空間は、静止系の空間なのです。
 その観点からは、枠だけでできた電車は、疑似的な運動系といえるかもしれません。
 今の議論は、空気存在下の議論でしたが、真空中のガリレイ座標空間の関係と空気存在下のガリレイ座標空間の法則は、同じと考えられるので、この法則は、すべてのガリレイ座標系に適用できると考えています。
 アインシュタインは、同時性の否定や、ミンコフスキー時空図の作成で、点や棒を移動した思考実験を考えていますが、棒や点の周りの空間は、静止系なのです。そして、静止系の光を観測して、同時性の否定やミンコフスキー時空図を作成しているのです。
 静止系の光を観測しているので、静止系の観測者と移動する観測者が、同時に光の移動状態を観測すると、矛盾が明確になります。


 では、枠だけでできた長さLの電車(棒)を移動させ、時計の同期を行い、移動する観測者と静止した観測者が観測する時間を見てみましょう。
電車の周りは、静止系の空間なので、アインシュタインが行った、棒を移動させて同時性を否定したときと同じ状態です。〔アインシュタインの論文【「運動物体の電気力学」(1905年)(アインシュタイン論文選 「奇跡の年」の5論文 青木 薫訳 ちくま学芸文庫)(「アインシュタイン相対性理論」内山 滝雄訳・解説)】 〕


 静止系に、長さLの電車が停止しているとします。この電車のA・Bに静止系で同期し、時刻合わせした時計を置きます、地上の観測者の位置にも同期し、時刻合わせした時計を置きます。
 時刻T₀(τ₀)でA点より光をB点に照射し、電車を速度Vで移動し、時刻T₁でB点に光が到達し、鏡で反射されて、時刻T₂でA点に戻ったとします。

       

       

                図-2
 移動する観測者O・Pは、 同時性の否定と同じ時間を観測します。ここで、τは、電車に乗っている時計の時刻とします。
 t₁=τ₁-τ₀=L/(C-V)
 t₂=τ₂-τ₁=L/(C+V)
を観測し、時計が同期していないのを観測します。
 静止系の観測者は、
 t₃=T₁-T₀=L/(C―V)
 t₄=T₂-T₁=L/(C+V)
を観測し、時計が同期してないことを観測します。
 静止系の観測者と移動する観測者は、同じ時間を観測しているのです。
 同時性の定義は何なのでしょう?
 移動する物体の時間の遅れは、どうなったのでしょう?
 これが、同時性の否定の本質なのです。
 移動する観測者も静止した観測者も、静止系を移動する光を観測しているのです。
(これに関しては、マックスウェルの波動方程式が、ガリレイ変換で不変でないことが大きくかかわっていると考えられますが、マックスウェルの波動方程式については、次のシリーズ3で詳細に考察します。)
 他の物理現象と同じように、静止系の事象(ボール等の移動時間)を移動しながら観測しても、同じ時間を観測します。光も他の物理現象と同じ観測結果が得られるのです。


 この問題は、ローレンツ因子算出の思考実験においても、見られ、同時性の思考実験と組み合わせると、矛盾が明確になります。
 アインシュタインの論文【「運動物体の電気力学」(1905年)(アインシュタイン論文選 「奇跡の年」の5論文 青木 薫訳 ちくま学芸文庫)(「アインシュタイン相対性理論」内山 滝雄訳・解説)】で思考実験より、「同時性の否定」と「ローレンツ因子の算出」を行っています。


 同時性に関しては、上述しましたので、ローレンツ因子算出の思考実験の矛盾を見てみましょう。ローレンツ因子は下記の手順を踏んで行われています。
 速度vで移動する運動系kで起こった出来事の場所と時刻を指定する値ε,η,ζ,τに対して、静止系Kを指定する値x,y,z,tとを関係づける連立方程式を
  x´=x-vt
と置いて求めています。
 速度VでX軸に沿って移動する運動系の座標軸と静止系の座標軸が重なった時刻を静止系の時計で、T₀とし、その時、原点よりX´に光を、照射し、時刻T₁で光がX´に到達し、鏡で反射され、時刻T₂で原点に戻ったとします。

         

                  図-3
 このとき、『1/2(τ₀+τ₂)=τ₁ は成り立たなければならない』【(原論文の青木薫訳 )、として、関数τの引数を書き入れ、静止系で光速度一定の原理を用いると(原論文の青木薫訳)として、ローレンツ因子の算出を行っています。
(「成り立たなければならない。」は内山瀧雄訳・解説 の中では、「成立するはずである。」となっており、原論文を直接訳したものと内山氏の解説書では、若干ニュアンスの違いがあり、内山氏の本では、τに関する解説が追加してあります。)】
 τの式が成り立つためには、運動系で時計が同期していないと成り立ちません
 τの式が成り立っているのかを検証してみましょう。
 運動系のX´軸上に長さx´の棒を原点よりX軸に沿って置き、棒の両端に運動系(静止系)で同期した時計とともに移動する観測者を置きます。同時性の否定の時と同じ状態です。

        

                 図-4
 時刻、T₀(τ₀)に原点よりx´に光を照射し、時刻T₁(τ₁)に光がx´に到達し、鏡で反射されて、時刻T₂(τ₂)で、原点に戻ったとします。
 運動する観測者は、
  τ₁-τ₀=r0x´/(C-V)
  τ₂-τ₁=r0x´/(C+V)
を観測し、時計が同期していないのを観測します。
 τの式が成り立たないのです。右辺の項目は、静止系で光速度不変原理を適用した光を運動している観測者が観察して、出てきた時間です。
 時刻が遅れようが、進もうと時間が等しくなければ、同期していないことになるのです。
 同時性の否定の時は、座標軸がない状態で、静止系の時計を使っていますが、棒の長さをそろえれば、同じ時間を観測していることになるのです。
 このローレンツ因子を導いた光の移動状態と同時性を否定したときの光の移動状態は、同じです。同時性の否定の時に、運動系の観測者は、時計が同期していないことを観測するとしていたのですから、この状態でτの式は成り立たなければならないという根拠がなくなると考えるのですが???
  
 静止系の観測者は、(x´は、原論文のものを使用 x´は長さに相当)
  T₁-T₀=x´/(C-V)
  T₂-T₁=x´/(C+V)
を観測します。
 議論の余地はあると思いますが、運動系の観測者が観測するr0x´と静止系の観測者が観測するx´の長さが等しければ、同じ時間を観測することになるのです。
 この状態では、τの式が成り立たないのです。
アインシュタインは、自身が行った同時性の否定の時と同じ事象の観測を言葉を変え、違った観点から考察を行い、今度は、同時性がなければならないとしているのです。
これが、ローレンツ因子の実態なのです。
ローレンツ因子は、虚構の数値なのです。
静止系を移動する棒を静止系の光が往復する状態を観測しているのです。
アインシュタインが、思考実験で、静止系で光速度不変原理を適用したときから、光は静止系の光になっていたのです。
 ミンコフスキー時空図の作成の思考実験でも、同じような考察をすると、同時刻線は、X軸に平行になり、時刻の遅れなどないのです。〔詳細は、このブログ村に投稿した(誰でもわかる「特殊相対性の矛盾」(改訂版))を参照してください。〕


 これらのことを考えるときに、マックスウェルの波動方程式がガリレイ変換で不変でないことが問題になりそうですが、これに関しては、シリーズ3で詳細に記述します。


 皆様のご反論・ご意見等をお待ちしております。